ヒダ耳鼻咽喉科・心療内科トップページへ

〜医者はどこまで患者と向き合っているか?〜主治医はあなた【随時更新】

現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。

主治医はあなた

目次へ戻る

“自分は自分でしかない”
と悟らせてくれたヨガ師匠との出会い。

■診療所で出会った、さまざまな興味深い症例

耳鼻咽喉科を開業して数年ほど過ぎた頃。患者さんの患部や周辺を押したり、触れたりしているうちに、周辺の健康部に圧痛や緊張などの異変が起きていることに気づきました。患側の腕や下肢にもそれが広がっています。例えば、難聴や耳鳴りのある患側の耳たぶの直下の凹み(翳風穴-えいふう穴)を押してみると痛みや緊張が認められますが、健側にはそれがありません。また、患部から連動して関連部位に肩こりといった緊張の変化が認められたことは、私に新しい視野をもたらしてくれました。

その後も、さまざまな興味深い症例に出会いました。
鼻汁が一杯出て慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と診断され、なかなか治らない小学2年生の男の子がいました。母親は「この子はアホです。学校の成績もビリ。お姉ちゃんは優秀だけど」と診療室で声高に叫ぶのです。男の子はうつむいたままです。「大丈夫!ここへ来たらきっと治るよ」と母親に負けないほど大きな声で叫んであげました。そして、母親に小声で「彼を誉めてあげて」とお願いしました。2週間後、再び来院した母親は「奇跡!奇跡!坊やの鼻が止まっちゃった!」と声高に言いました。男の子もニコニコして嬉しそうでした。
心が体に強く影響すること、親の心が子供の心に深く影響することを学びました。

ある人は大学病院で複数の科にかかり20種類の薬を何年も飲んでいますがどこも治らないままです。本人はどの科の薬も止めてはいけないと信じています。どうしたら良いでしょうか?と家族から相談を受けました。

心が身体に与える影響の大きさは計り知れないことは、だれもが感じていることです。しかし、病院は各専門科に分かれていて、その範囲内で診断が決まり、型どおりの治療法と治療薬が使われます。人間としての心が置き去りになっているとは言えないでしょうか?

こうした体験と疑問が積み重なっていき、私は西洋医学にはないものに目を向けるようになっていきました。そのひとつがヨガだったのです。

■ヨガ道場の沖正弘先生との出会い

ヨガとのご縁を頂いたのは、自分の身体を治したい一心で習い始めた鍼治療で知り合った鍼灸師さんでした。鍼灸術はバランスの法則に従って行うもので、初心者である私でも結果を出せることが分かったとき、すでに西洋医学の垣根を越え、すでに私は全く新しい世界に足を踏み入れていました。

ある日、鍼灸師の方から「興味があれば、ヨガの講演会に行ってみないか」と誘われました。それが後に私に大きな影響を与えることになる沖正弘先生との出会いでした。

沖先生の第一声は「人間の一番基本的なことは心と体と生活のバランスだ」。その言葉に、自分の体に電気が走ったような感動を覚えました。沖先生の話はじつに興味深く、2時間はあっという間に過ぎました。決して難しい話ではありません。むしろ当たり前のことばかりでしたが、鍼灸でならったバランスの原理をさらにダイナミックにした新鮮なものでした。

「何故、病気が治らないのか」
「生きているとはどういうことなのか?」
「健康とは何か?」「病気とは何か?」
「薬になるものは一人ひとり違う」

誰もが興味をもつ内容でしたが、「私は医師だ。学位もある。病気の専門家だ」という妙なプライドを棄てなければ聞けない話ばかりです。でも、不思議にも「何も知らない」自分を認め、素直になれたのです。

その年の暮れ、三島にある沖先生のヨガ道場を訪れ、4日間のプログラムに参加しました。1日で辛くなるような厳しいプログラムでした。一緒に参加された方々の中には、会社の社長さんもいれば大学教授もいましたが、道場のなかでは肩書きは関係ありません。全員がジャージ姿で、「さん」付けです。

■医療機器がなくても診療できてこそ、本来の医者

ようやく最後の4日目を迎えたとき、沖先生の部屋に呼ばれました。
「耳鼻科のお医者でしたね。もし診療の場から医療機器など何もかも取り上げられたとして、さあ、この患者を治して欲しい。と言われたらどうしますか?」
と尋ねられました。
「お手上げですね。医療器械がなければ何もできません」
とお答えすると、即座に
「それでは、医者とは言えないでしょう?刀がなくても勝負できなければ武士と言えないのでは」
そう厳しく言われたのです。このことはずっと今もまだ心に残っています。

続いて沖先生はこう言われました。
「この道場では、心身をフルに使うことで治癒力が働き病気も自然に治ってしまうのです。確かめるために2週間に1度、道場にいらっしゃい」。

こうして私は、隔週で道場に通うことになったのですが、俗世間では体験できない時間を得ることができました。午前中は身体を動かすことをしっかり行い、午後は瞑想と話を聞き、寝る前には1日の感想文をしたためる。結局、自分は自分でしかないということをしみじみ悟りました。

しばらく経ったある日、沖先生から日本医師会会長の武見太郎先生と対談するから一緒に聞いたらどうかと言われ同席させていただきました。哲学や宗教など、あらゆる面で視野の広い話が飛び交い、非常にいい勉強になりました。

■ヨガとは「人間の生き方」「真実」を学ぶ実践哲学

ヨガとは何かを軽々しく述べることは私にはできません。ただ言えることは、世間でいう健康法美容法とは全く違うこと。「人間の生き方」「真実」を学ぶ実践哲学と申し上げたらいいでしょうか。平易から難解まで実に幅広い実践哲学であって、今現在も、私の心の内からヨガは離れていません。

鍼灸やヨガに続いて、操体法、整体、心身統一合気道、仏教など、あらゆる体験をしていくわけですが、これらに共通して存在するものがひとつだけあります。それは、「氣」の概念です。目に見えない「氣」とは、生命と自然などの根源的エネルギーです。しかし「氣」の概念は近代西洋医学では認められていません。
近代西洋医学とホリスティック医学との決定的な違いはここにあると考えています。

次回は、日本ホリスティック医学協会の中部支部が発足するきっかけとなった「生き方懇話会」についてお話しましょう。

「WebBook 主治医はあなた」についてご意見・ご感想をお聞かせください。 メール送信