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〜医者はどこまで患者と向き合っているか?〜主治医はあなた【随時更新】

現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。

主治医はあなた

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Session1総合病院医長、開業医と共に
今の医療のあり方を語る

―樋田先生との出会いについてお聞かせください。

伊藤 鍼灸学校で学んでいた頃、進路や治療方針ついて悩んでいて、学校の先生に相談したら「ユニークな治療をやっているところがある」と紹介されたのがきっかけです。そのご縁で高麗手指鍼を知りました。身体のさまざまな部位に鍼を打つことを習っていた私にとって、手のひらを全身と考える高麗手指鍼はとても新鮮でした。研修生として樋田先生の診察に立ち会わせていただくようになり、手のひらに鍼を打つだけで患者さんに効果が表れる様子を目の当たりにして、これはすごいと感動しました。

最初の頃は樋田先生の技術に惹かれて通っていましたが、そのうち患者さんとの関わり方や診療への考え方に感銘を受けるようになり、出会って20年近くたった今も、毎週土曜日には先生の助手として勉強させていただいています。

前嶋 私は2年前、父を通じて樋田先生に出会いました。父と先生とは古くからの友人で、父が病んでいた時期は診察も受けていたと後から聞きました。

私の専門は神経内科ですが、この分野はアルツハイマーやパーキンソン病など治癒の難しい病気が多く、脳梗塞も重度だとなかなか治りません。リハビリを続けることで元の生活への復帰を目指しますが、まったく元通りというわけにはいかないのです。目に見える外科の病気と違い、検査結果から「ここが異常だから治療しましょう」というような明確な診断が難しい。たとえ診断がついたとしても、人それぞれ経過は違いますし、薬の効く人もいれば効かない人もいる。また、ある病気の症状は出ていても、検査結果がその病気に当てはまらないなど、一人ひとり、内容はさまざまなのです。

医者になって10数年経ち、「今の西洋医学では、自分自身も患者さんも、満足の得られる医療を提供するのは難しいのではないか」と疑問が少しずつ沸いていた頃、父から樋田先生の治療の話を聞き、「何か新しいきっかけになれば」と診療風景を見学させていただきました。

―先生の第一印象はいかがでしたか?

前嶋 正直言いますと、筋反射テストなどは西洋医学と異なるものなので、にわかには信じられなかったですね。でも、実際に症状が良くなっていく患者さんを次々と見るうちに、こう思うようになりました。

「人間には本来、内なる治癒力があって、樋田先生はそれを良い方向へ好転させる不思議な力がある」と。その力を解明する、なんて言うとおこがましいのですが、とにかく先生の治療について知りたいと思いました。私の能力では吸収できない部分もたくさんありますが、できることからいろいろ勉強していこうと。そして今は仕事の都合がつく限り、土曜日に診療所で助手をさせていただいています。

―樋田先生の「心と体の統合医療」について、どのように感じていらっしゃいますか。

前嶋 先生の診療所には本当にいろいろな患者さんがいらっしゃいます。パーキンソン病の方や多系統萎縮症という難病の方も珍しくありません。普通に考えれば、こうした病気は経過が悪くなっていくはずなのに、患者さんの気持ちをプラスに引き上げ、良い方向へと導かれていくケースを私は何人も見てきました。西洋医学では、なかなか説明つかないことが、先生の周囲にはありすぎるんですよね。

伊藤 そうですね(笑)

前嶋 これまで私は大学の研究にも携わってきましたので、医学の進歩については、ある程度分かっているつもりでした。でも、私たち医者が分かったつもりでいることは、じつは医療の氷山の一角にすぎず、まだまだ解明されていないことがいっぱいある。人間が本来もっている治癒能力は、もっともっとすごいのではないか。樋田先生を見ていると、そう思えてくるのです。先生のような医師はめったにいらっしゃいませんが、問診や診察を大事にしている名医には、先生に通じる「すごさ」のようなものがあります。

樋田 西洋医学が中心の医学の世界で、それ以外のことをやろうとすると、つまはじきにされるような部分があります。そんな中で、よく私のもとへ通うことを決めましたよね。

前嶋 それは私の感性というか、とにかく知りたいという気持ちが強かったからだと思います。あと、患者さんの質問に答えられない自分がもどかしかった。「なんで私の身体はこうなふうになってしまったのですか」と聞かれても、西洋医学の領域では答えを出すことができない。それは医者にとって大きなストレスです。

ですから先生の独創性というか、今ある治療だけではなく、どんどん先にいこうとする診療の姿勢はすばらしいと思いますし、「もっといいものを、もっといい治療を」という向上心には感銘を受けています。例えば、今現在はこういう治療に取り組んでいると思っていたら、一ヶ月後には知らないところまで走っていってしまう。そのバイタリティーというか、エネルギッシュなところはすごいと思います。はたして自分が先生と同じ年代になったとき、そのパワーがあるかどうか、想像もつきません(笑)。

伊藤 まったく同感です。私は往診専門の治療をしていて、腰が痛い、肩が痛いといった患者さんから、脳梗塞、若年性アルツハイマーなど、さまざまな症状と日々、向き合っています。だからこそ、先生が新しい治療法を取り入れて効果を出すのを拝見するたび、「よし、私もやってみよう」と挑戦するのですが、ようやく習得できた頃には、もう次の方法を見つけていらっしゃる(笑)。

樋田 新しい治療方法に出会ったら、まず確かめてみたいという思いが非常に強いですね。最近、あるひらめきで始めた花粉症の治療のなかに「花粉は友だち」と紙に書いて患者さんに渡すというものがあります。花粉症に悩んでいる人たちに共通するのは「花粉はイヤだ」「花粉はキライ」という否定的な気持ち。これをやわらげるためのもので、患者さんは毎日、この「紙の処方箋」を眺めるだけでいい。それで、けっこう効果が表れている。

前嶋 確かに、病院という組織にはルールもあるので、勤務医は勝手に新しい治療法を取り入れることは難しい。でも、先生のように自由診療という形で、患者さんが満足されるのであれば、いろいろな治療法があっていいと私は思うようになりました。どの医療機関で、どういう治療を受けるのか、それを選ぶ権利は患者さんにある。「これはダメ、あれはダメ」と医者が言うのはおこがましいと思います。

最近の医療は検査がすごく進歩して、画像などで目に見える分野がどんどん広がっている。その反面、目に見えない部分を大切にしようという志向も出てきているように思います。それは、検査による画像に頼って人間の身体をすべて把握しようという考えには限界があるという表れではないでしょうか。

樋田 私にとって医療というのは、富士山のイメージがあるんです。真ん中に高い頂があって、それがぶれることは決してないけれど、裾野は限りなく長くて、全てつながっているというイメージです。生きているという一瞬も富士山と同じ。心と身体がすべてつながって、ひとつのバランスを保っている。それが崩れたり狂ったりした状態を病気ととらえる考え方が一般的かと思いますが、見方を変えれば、狂ったバランスを戻そうとしているのが病気の現れともいえないでしょうか。ひとつの事実を「悪」と決めつけ、狭い範囲で見るのではなく、富士山のように全体という必然性をもって起きているととらえることも大事。なぜなら人間には、生きようとする本能がある。生きようとするために病気もあると考えれば、「病気によって死ぬ」「病気によって殺される」という断片的な考えは改めるべきだと私は考えています。

前嶋 先生が病名にこだわらない理由も、そこにあるんですよね。

樋田 そのとおりです。患者さんにとって病名は大きな負担となります。しかし、病名は、人間が勝手につけたひとつの情報に過ぎません。ところが、その情報を「悪」「敵」と多くの人がとらえてしまう。すると病気は敵視する対象となってしまいます。でも病気ってそうじゃないんです。病気というものによって、崩れそうなバランスを戻そうとしている働きだと理解すれば、患者さんは病気への大きなストレスが緩和されます。病気のおかげで守られていると分かると、身体は本当に変わります。

前嶋 医学の世界では、病気は敵に位置づけられています。

樋田 そうですね。ただし、民間療法に私のような考え方をしている方はたくさんいます。「症状即療法」というのは民間の考え方。通常の西洋医学では縁遠いですが、これからはぜひ生かすべきでしょう。病気を敵視する限り、誰も幸せにならないし、医者自身も幸せになれないと私は思っています。

―樋田先生はよく「医学ではなく医療を大事にしたい」とおっしゃるのですが、2つの違いについてどのように考えたらよいでしょうか。

前嶋 医学というのは技術や知識です。例えば「脳梗塞は血管がつまって脳細胞が壊れて症状が出てしまう」という知識。医療というのは、それに精神約なもの、身体的なもの、つまり人が加わって、脳梗塞だけじゃなくてその人の心身ともによくするというもの。こういう薬を使うといった医学的な知識を活用するものが医療だと思います。ただし、医療は医学だけでは説明できないものです。患者さん個々によって違うので、人を見なければというか人によって合わせたそれぞれの診療方法、診断方法があります。だから中心は医療であって、医学は医療のためにある。医療するために医学を活用している、と私は解釈しています。

樋田 そのとおりだと思います。私もつねに「医療」を求めています。ところが医学中心になると、「敵と味方」という考え、「見えるものだけを対象にする」という志向につい傾いてしまうのではないかと危惧を感じています。

前嶋 今の時代、医学がどんどん医療にかぶさってきている気がします。「こういうデータが出ているから仕方ない」というような。たとえ他に原因があっても、それは無視されてしまいやすい。データ主義が良いとは思わないけれど、実際にそういうシステムによって病院の仕事が回るようになっています。とはいえ、これからは心の時代というか、精神的に病んでいる人がどんどん増えていくと予想されますし、データでは把握できない部分が増えていけば、医療も変わっていくのではないかと思います。

私はアルツハイマーなど精神難病の病気を診ていますが、一番困るのは心身症のような不定愁訴の症状です。検査では何の異常もないのに、お腹が痛い、胸が痛い、頭が痛いと。そういうものは医学的に説明がつかない。こういった訴えをされる患者さんはどんどん増えてきています。けれど、検査で異常がなければ「異常なし」としか言いようがない。もちろん患者さんは納得されず、悩み苦しんでいるのが実状です。

樋田 ただ、医療は患者さんに「ここで行き止まり」という印象を与えてはならないと思います。私は「これがだめならこっちがあるよ」という希望を与えるようにしています。

伊藤 そんなふうに一人ひとりの患者さんと真剣に向き合う樋田先生を見ていて「疲れませんか」と思ったこともありました。

樋田 確かに昔は疲れていましたよ(笑)。1〜2人の患者さんを診るだけでヘトヘトになっていました。それは、医療の主役を患者さんではなく、医者に置いて、「自分が治してやろう」という気持ちがあったから。でもそれは、医者のおごりだったのだと今は思います。治療を医者の手柄みたいに考えていると、疲れてしまう。今の私は、主役を患者さんにおいて診ているので、本当に疲れなくなりました。

前嶋 風邪ひとつ取り上げてもそうですよね。解熱剤や抗生物質を出したりしますが、それは対症療法にすぎなくて、本当は薬で治るわけではない。基本的に風邪のウイルスを倒しにかかっているのは、本人の免疫力なのですから。どんな病気の治療も、医者は患者さんのお手伝い。ところが、医療の現場では「先生、なんとかしてください」と患者さんの依存性がとても高く、プレッシャーやストレスは多いですね。あるとき私は「医者はお手伝いすることはできるけど、治すのは患者さんご自身です」と言うと「じゃあ私は、どうしたらいいですか」と患者さんは途方にくれてしまいました。

樋田 医者がすべての病気を治せると言い切るのはいかがなものでしょうか。医者を過大評価するのは良いことではありません。白衣を脱いだら普通の人なのです。医者は、自分の領分をわきまえながら、患者さんを主役にした仕事をまっとうすることが大切だと私は思っています。

症状の奥深くにある“いのち”を輝かせる医療に魅せられて20年、
このまま変わらず走り続けてほしい。
伊藤麻紀

「病気ではなく、病人を診なさい」と言う樋田先生の言葉は深く心に残っています。先生は、症状を含めて、患者さんの奥深くにある“いのち”を見つめた医療をされています。命をいかに輝かせるかということに重点を置いた治療、そういえばいいでしょうか。症状を取り除くだけなら、鍼を打てば終わりです。でも先生の教えに習って、その人自身の環境や心の持ち方まで踏み込んでお話をすると、病気の治りも違ってきます。
先生の診療所には、「先生の顔を見に来た」と精神的に満たされ満足されている患者さんが多くいらっしゃいます。先生の医療を求めている患者さんが存在する以上、何をいわれても、孤軍奮闘でもいいので、このまま前に向かって走り続けていただきたいと思います。私も、少しでもそういう治療に近づきたいと思って日々仕事をしています。

今の医療の世界では受け入れられなくても、
それで治っている患者さんを誰も否定できないはずです。
前嶋伸哉

今の医療の世界では受け入れられない治療も取り入れていますが、こういった医療もこれからは必要と思っています。「病は気から」と言われるように、樋田先生は、人に本来備わっている治癒能力をうまく働かせているのだと私は理解しています。先生のされていることを否定したら、実際に治っている患者さんや、それで幸せになったという患者さんまで否定することになります。それは医者の一人としてしたくはありません。
まずは、世の中の人にこういう考えの医療もあるのだと分かってもらうことが大切です。以前の私がそうだったように「あれ?今まで医療の常識と考えてきたことが違うのかもしれない」と、先生を受け入れる人が増えて世論が変わっていけば、医療側も新しい考えを認めざるを得ないですし、前向きに変わっていくと心から期待しています。

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